【動画付】「ボディメカニクス」とは?介護のプロが簡単解説

身体に負担をかけない介護や腰痛対策について調べると『ボディメカニクス』という言葉をよく目にします。
すでにご存じの方も多いかと思いますが『ボディメカニクス』とは、人間本来の身体の機能を使って、最小限の力で行う身体に負担をかけない介護技術のこと。実際に介護の現場でもよく使われています。
重い身体を起こしたり、支えたり、時には持ち上げなくてはならない時もあったりと、身体にはどうしても負担がかかってしまう介護で、本当に『ボディメカニクス』は効果があるのでしょうか?
結論からいうと「ボディメカニクス」を活用することで身体への負担を軽減することは可能です。
そこでこの記事では、
- ボディメカニクスとは何かとその基本姿勢
- 成功させる重要ポイント
- ボディメカニクス活用例の動画
をわかりやすく紹介します。
最後まで読んでいただくことで、介護が原因の腰痛や身体への負担を軽減しつつ、介護される方にとっても安心感のある介護ができるようになるはずです。
※当該記事に関する個別のお問い合わせは受け付けておりません。
また、記事中の触れられている法的見解についての責任は一切負いかねます。所管の自治体窓口または弁護士などの専門家にご相談ください。
目次
1.「ボディメカニクス」とは身体に負担をかけない介護技術!腰痛予防にも効果的

先にも述べましたが、あらためて「ボディメカニクス」とは、人間本来の身体の機能(身体力学)を使って、最小限の力で、介護される方を動かしたり、支えたりすることのできる介護技術です。もっと簡単にいうと、筋肉や骨、関節などが動くときに作用する力学関係を活用したものです。
力まかせに介助をすることは、身体に負担がかかるだけでなく、介護される方の身体の動きを妨げたり、不安や苦痛を与えることもあります。
またそれがケガにつながることもあります。
そこでこのボディメカニクスを活用すれば、力任せではない無理のない安定した姿勢で介助ができるようになるので、腰痛の予防や身体の負担も軽減できるようになります。
起き上がりや移乗など、介護のあらゆる場面で活用することができるので、しっかりと身につけましょう。
2.ボディメカニクスの基本的なやり方
ボディメカニクスは以下の7つの原理から成り立ちます。
ポイントを理解して基本をマスターしておきましょう。
1.重心を下げて支持基底面積を広くとる
体重を支えるために必要な床面積のことを「支持基底面積(しじきていめんせき)」といいます。これは床に触れている足裏のみではなく、両足の間も含めすべてを指します。この支持基底面積を広くすることで安定感がでます。
両足を肩幅くらいに広き、さらに開きたい場合は前後に開くと支持基底面積は広がります。さらに、膝を曲げて重心を下げるとより安定感が増します。

2.できるだけ近づく(重心を近づける)
重いものを持つときに物を身体に引き寄せるようにすると持ちやすくなるのと同じように、介護される方にできるだけ身体を密着させ重心を近づけます。
そうすることで、身体に安定感がでるので無理なく適度に力を入れやすくなります。

3.身体を小さくまとめる
同じ重さのものでも、大きいものよりも小さいものの方が動かしやすいのと同じように、介護される方の腕を胸のうえで組み、足を立ててできる限り身体を小さくまとめます。

4.持ち上げずに、水平移動を行う
重いものを持ち上げると重力の影響で重く感じてしまうので、なるべく水平にスライドさせることを意識するようにします。

5.腕だけでなく身体全体を使う
手先や腕など身体の一部だけ使うと負担が集中し、すぐに疲れてしまうので、腕や背中、腰、脚など全体を使う意識をすると負担が分散して、身体への負担が少なくなります。

6.肩と腰を平行にして身体をねじらない
身体をねじった姿勢で介助を行うと、本来の力が出ないばかりでなく腰を痛めてしまいます。肩と腰は常に平行に保つことを意識して動かします。

7.てこの原理を使う
てこの原理とは、力点(力が働くポイント)と作用点(力が働く点)の間に支点(支えとなるポイント)を置くことで大きなものを小さい力で動かせる原理。
これを利用して介護される方の身体を動かします。例えば、介護される方の肘や膝、おしりなどを支点にして、遠心力で身体を起こします。

3.ボディメカニクスに加える重要な2つのポイント
ボディメカクスの基本がわかったら、早速実践をしたいところですが効果的に活用するために重要となるポイントを2つお伝えします。
簡単なことですが、身体の負担が軽減するだけでなく、介護される方の安心感にもつながり、介助がグッとしやすくなりますよ。
3-1 常に「声かけ」しながら行う

これから何を行われるのかわからない状態で身体に触れられたり動かされるのは、誰でも不安になったりストレスがかかります。あらかじめ声をかけることは、介護される方の心の準備にもなって、より動かしやすくなります。
「身体を起こしますね」
「足の位置を直しますね。お尻を浮かせられますか?」
など、常に声をかけながら行いましょう。
3-2 自分でできることはしてもらう

介護される方が今できることは、なるべくしてもらうようにしましょう。
介護の負担が減るのはもちろんですが、せっかく使える身体の機能を使わないままでいると、どんどん低下していってしまいます。
例えば、脚の力が残っていれば
- 車いすへの移乗の時に自分で立ち上がる
- 入浴中に自分で浴槽をまたぐ
- なるべく車いすを使わず手すりや歩行器を使って歩く
など、ポイントは何でも手を出すのではなく、できることを奪わないように見守ること。全てやってしまうと、あっという間にできなくなってしまいます。
もちろん、危険なことやストレスが大きいと思われるときは無理にやらせず介助しましょう。
4.動画で簡単にわかるボディメカニクスを活用した介助例
ボディメカニクスの原理を組みあわせることで、さまざまな介助に活用ができます。ここでは日常的によく行う介助例を動画でわかりやすく紹介したいと思います。
これらの介助をする場合も必ず声かけをしながら、身体の状態にあわせて行っていきましょう。
4-1 ベッドから起きあがる
- ベッドを介助しやすい高さにします
- 腕を胸の前で組んで膝を立ててもらう
- 腕を首の下と膝の下に入れる
- 身体を近づけて引き寄せながら骨盤を支点に起こす
4-2 椅子から立つ(片手引き・両手引き)
片手引き
- 足のつま先と膝が垂直の位置にくるくらいに引いてもらう
- 手のひらと腕を支えるように掴む
- 頭をさげながらおじぎの姿勢になってもらう(お尻が自然に持ち上がりやすくなります)
- 膝を伸ばして立ち上がってもらう(※この時、持ち上げたりせず、自分が手すりになたようなイメージで支える)
両手引き
- 足のつま先と膝が垂直の位置にくるくらいに引いてもらう
- 自分の二の腕辺りをつかんでもらい相手の腕全体をしたから支えるように添える
- 頭をさげながらおじぎの姿勢になってもらう(お尻が自然に持ち上がりやすくなります)
- 膝を伸ばして立ち上がってもらう(※この時、持ち上げたりせず、自分が手すりになたようなイメージで支える)
4-3 ベッドから車いすへの移乗
- ベッドを車いすよりやや高い程度に調整する
- 車いすの角度をベッドに対して30~45度くらいにして付けておく(※必ずブレーキをかけ、フットレストをあげておく)
- 足のつま先と膝が垂直の位置にくるくらいに引いてもらう
- 自分の足を前後に開き前足を相手の両足の間に入れ、腕を肩にまわしてもらい背中を抱え身体を近づける
- 車いすに近い方の足を軸(足先を車いすに向ける)に身体を横にスライドさせるイメージで方向転換し、一緒に腰を落としながらゆっくりと座ってもらう
(※この時、持ち上げたり、身体をねじらない様に肩と腰の平行を意識する) - お尻の位置を確かめる
浅い場合は、後ろにまわり両脇に腕を入れ、相手をやや前傾にして引き寄せ、深く座らせる - フットレストに両足を乗せる
さいごに

いかがでしたか?
ボディメカニクスを活用することで、身体への負担が軽減することはもちろん、介護される方にとってもメリットがあります。
しっかりと声かけなどのコミュニケーションをとりながら、今日からは腰痛や身体にかかる大きな負担から解放されましょう。
また、ボディメカニクスは人間本来の身体の機能を使った技術なので、介護以外の日常生活の中でも様々な場面で活用できます。ぜひ、意識して活用してみてくださいね。
さらに、腰痛に悩んでいるという方は、腰痛の原因から予防、自宅でできる簡単ストレッチを紹介している「介護が原因の腰痛になる前に!腰痛予防のポイントと簡単ストレッチ」もあわせて読んでみてください。
※当該記事に関する個別のお問い合わせは受け付けておりません。
また、記事中の触れられている法的見解についての責任は一切負いかねます。所管の自治体窓口または弁護士などの専門家にご相談ください。